D&Dのれぽ

近年アルディオンの最前線にてその名を轟かせつつある傭兵団「閃光騎兵団」は、敵勢力がある山腹のダンジョンにて動きを見せているという情報を聞きつけ、特戦部隊第4小隊、通称“D”を送りこんだ。特戦部隊は通常の部隊の手に余る特殊な、あるいは難解な任務全般の遂行を引き受ける何でも屋のような部隊であり、通称冒険者部隊と呼ばれている。これらの小隊には数字に対応する一文字のアルファベットをコードとして冠しており、それがそのまま特戦部隊内での強さを表している。“D”はいわば4番目に強いことになる。普通ならば。

はっきり言うと“D”は例外である。“悪魔のD”“死神のD”と呼ばれるこの小隊は、メンバーの入れ替わりの多い特戦部隊の中でも設立以来、全滅回数において群を抜いている不吉の象徴である。いつしか“D”は団内で手のつけられない、あるいは扱いに困る者の送り場所となり、それに従い“D”に与えられる任務も過酷で無慈悲なものとなった。“D”は処刑所と同義語となりつつあった。彼等が来るまでは。

ドワーフのダールはフルプレートとドワーブンアクスで身を固め、常に“D”の最前線にて戦い続ける戦士である。いかなる死神もこの鉄壁を打ち破ることに成功してはおらず、その目の前に立って原形を留められた相手はいない。今のところは。

一番まともそうな人間のジックが“D”に入ることになった理由は唐突に発現したサイオン能力が関係あるのかは定かではない。通常時のスペックは高くないが、パワーを溜めた状態の破壊力において彼の右に出るものはいない。

双剣使いのジーンはローグとしても戦闘員としても平均以上の優秀さを誇る。もし彼が口を開くときに言葉を選べる人間だったら“D”にいなかったかもしれない。隊員達は彼の長所を誉めることより、短所を非難することに、より熱心である。

ハーフオークのゲーマルク2世は並外れた腕力と脚力を誇る遠近両用の万能戦士である。口の悪さに加え、卑しい生まれを持つ彼が“D”にいることに何の不思議もないが、だからと言って彼を侮って生き延びれた人間は皆無である。

現在の“D”は相変わらず少人数による強行偵察や先行強襲を常とするが、彼等の入隊以来全滅したことはない。それどころか功績を上げながら頭角を現し始めている現“D”は実力的には“C”と同等かそれ以上なのではないかと噂され始めている。

ダンジョンへ強襲した“D”は入り口とその奥にたむろするオーク、ゴブリン、バグベアを殲滅し、その奥でダンジョンの先住者であるウィザードのマローと対面した。団長の友人である彼女の言によれば、敵はダンジョンの奥に大量の人員と機材を持ち込み何か巨大な兵器をこしらえようとしているらしい。また敵軍幹部の一角であるブラックドラゴンのベルガンダラスもこのダンジョンの奥にいるようであり、連中を直接指揮しているらしい。

今回の“D”の任務も強行偵察であり、たとえ情報を得たとしてもそれを本隊に送った直後に先行強襲の任務が待っていることに代わりはないだろう。その点についてはすでに諦めている“D”の面々はマローの協力を取り付けると彼女の使い魔を本隊への伝令として送り、自らはより奥へと潜入することにした。

一行は大規模な敵部隊との遭遇を避けつつ警備の薄い箇所の見張りを切り伏せながら進み、やがて巨大な扉の前に至った。聞き耳を立て、罠がないことを確認した後、薄く扉を開け中を覗き込むと巨大な空洞の中心で崖と溶岩をバックに鎮座するブラックドラゴンが一匹、こちらの方を直視していた。しばしの逡巡の後、ゲーマルクは扉の隙間から弓を討つことを提案したが、ドラゴンは厳かな声で「そこの卑小な人間どもよ。さっさと姿を現さぬのならそこに火球を叩き込むぞ」と脅されたので、一行はしぶしぶ扉の奥へと入った。

ブラックドラゴンのベルガンダラスは一堂の前で演説を始めようとしたが、卑しいゲーマルクは相変わらず不意を討とうと弓を構えようとしていたので、ベルガンダラスは彼を叱り、不意を討てないことを宣言しつつロールプレイの大切さについて語り、一同を渋々納得させると、自らの壮大な計画と製作中の新兵器「ジャガーノート」の恐ろしさについて語り、それが終わると期待の眼差しで一同の反応を窺ったが、結果は冷淡かつ無慈悲なものだった。
「御託は終わりか?」
「言い残したことはないな?」
ここはD&Dであり、敵は下級とはいえドラゴンである。最早気の利いたロールプレイを捻り出す余裕など存在しようはずもなかった。ベルガンダラスはGMの心の叫びをムギャオーしながら一同に襲い掛かった。

ベルガンダラスのイニシアティブは気合が入っていたが、その隙を窺っていたゲーマルクはさらに気合が入っていた。彼は温存していた激怒を爆発させると、激怒状態用にあつらえた強弓を瞬時に構え連射し始めた。それをものともせず突っ込んだベルガンダラスをダールとジーンが迎え撃った。ジックは部屋に入る前に収束したサイオニックパワーを放ったが、力みすぎてすっぽ抜けた為、皆がwktk期待していた貴重なダメージ元は溶岩の藻屑と化した。ジックは仕方なく異形のクリーチャーを呼び出して前線へと送り込んだ。ゲーマルクも弓を捨てると流れるような動きでグレイブを抜きざま突撃した。四方を刃の檻に囲まれ、NPCウィザードのマローが放つライトニングを浴びるとさしものドラゴンも怯み、メイジアーマーで身を固めながら距離をとり、アシッドブレスとファイアボールとマジックミサイルを乱発した。この熾烈を極めた攻撃によりダールとジーンは満身創痍となり、ゲーマルクに至っては激怒の切れ目が命の切れ目といった状態まで追い込まれた。ジックの召還時間とサイオニックパワーも底を尽き、時折マローのライトニングが命中するもののベルガンダラスを追い詰めるには至らなかった。ダールとジーンはお互いの顔に「殺らなきゃ殺られる」と書きなぐりながら、無謀な突撃で背後から迫り来る絶望を振り切り、中距離を逃げ回るベルガンダラスに必死で追いすがった。その二人に気を取られた隙をゲーマルクは見逃さなかった。彼は2本目の弓を捨てながらベルガンダラスの後頭部へと飛び掛りクラブを振り下ろした。16スタートにして達成値30オーバーの一撃がついにドラゴンの角と闘志をへし折った。残る首の皮2枚(HP2)となったベルガンダラスは呪詛の言葉と共にその場を離脱した。

「我をここまで追い詰めた貴様らの顔は決して忘れんぞ!特に我が角を折ってくれた貴様!名を聞いておこう!」
ゲーマルク……
「憶えておけ!貴様を地獄に叩き堕とす者の名だッ」

何故かジックに台詞を横取りされ微妙な表情のゲーマルクを睨みつけ
「貴様は末代まで祟ってやるぞ!覚えておけ!」
とフレーバーブレスと共に吐き捨てるとベルガンダラスは身を翻し、空の彼方へと消えていった。
「ナリがデカい割にはチンケな捨て台詞だな」
呟きゲーマルクは追撃の手段がないか逡巡したが、生憎3本目の弓はなかった。というかそもそもクラブを抜くのに弓を捨てる必要はなかったことに気づき自分の迂闊さを呪ったが、フレ−バーブレスによってフレーバー崩落を起こしていた戦場から離脱する為、ドラゴンの角と武器を回収し始めた。

ドラゴンとの激戦を終えた彼らが元来た道を戻ると、そこでは既に味方の増援部隊が敵部隊を制圧している所だった。いつもよりやけに早い本部の対応に一同は首をひねったが、聞けば以前から上層部は「ジャガーノート」の存在を知り、用心していた為に迅速な対応が可能だったようである。

惜しくも逃しはしたが、手ごわい敵幹部を撃退せしめた“D”の功績は敵味方の双方に新たな驚愕と畏怖を植えつけた。だがこの戦いは後に待ち受ける壮絶なる血戦の序章にしか過ぎなかった。(めいびー